大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島家庭裁判所 昭和45年(家)663号 審判

申立人 島田正治(仮名)

被相続人 島田輝夫(仮名)

主文

被相続人島田輝夫の相続財産である福島市○○町○○字○町○番の○宅地二〇八、二六平方メートルを申立人に分与する。

理由

本件調査の結果によると、

一  被相続人島田輝夫は、昭和二〇年一二月二三日死亡したが、戸主であつたので家督相続が開始され、直系卑属も指定、選定家督相続人もないため、同四四年二月五日田中真寿夫が相続財産管理人に選任され、同四四年一二月二〇日相続債権者及び受遺者に対する請求申出催告の官報公告、同四五年四月二四日相続人捜索の官報公告がなされたが、相続債権者、受遺者、相続人の申出がなく、相続人捜索の公告期間満了後三か月内に本件申立がなされたこと、

二  申立人は、被相続人島田輝夫の祖母の妹の孫島田信介の長男で、被相続人島田輝夫の親族でなく、その遠縁に当るものであるが、被相続人島田輝夫は、幼児期に眼病を患つて失明し、あんま業を営んでいたが、婚姻したこともなく、従つて、子もないまま昭和二〇年一二月二三日死亡したが、福島市○○町○○字○町○番の○に宅地二〇八、二六平方メートル、これが宅地上の同所○番地に居宅木造草葺平家建三三・〇五平方メートル付属建物一棟を所有し、独身で不自由のため、同所で、昭和二、三年頃から申立人の両親及び申立人等と同居し、身の廻り一切のことにつき、申立人の両親の世話を受けていたこと、

三  申立人の両親は、申立人の祖父島田頼之助が酒好きで財産を費消し、住む家までなくしたため、被相続人と同人の身辺一切の面倒をみることを約し、同人と同居するようになつたが、その生存中これが療養看護、身の廻りの世話など一切の面倒をみてやり、その死後においては、葬儀を行うほか仏事法要などをして、被相続人の祭祀を主宰し、本件遺産についても、これを占有管理してきたが、申立人の父は昭和二七年四月四日、申立人の母は同三二年三月三一日それぞれ死亡したこと、

四  申立人は、同人が小学二、三年頃から昭和一六年現役兵として入隊するまで、その両親と共に、被相続人と同居し、その死亡後の同二一年一月復員して両親の許に戻り、両親死亡後も同所に居住して被相続人の遺産を占有管理し、これに対する納税義務者はいつの間にか申立人になつてしまつたので、その名義で納税するようになり、本件遺産のうち、居宅は古くなつて使用できなくなつたため、同三九年一〇月頃にこれを取り壊し、その場所のあつた本件遺産の宅地上に、家屋を新築し、申立人名儀で保存登記して居住しているが、その結果、被相続人の遺産は宅地だけとなり、これを申立人において占有管理し、かつ、その両親死亡後被相続人の祭祀を承継主宰していること、

が認められる。

以上認定の事実からすると、

申立人の両親は、民法第九五八条の三の被相続人の特別縁故者に該当すること明白であるが、相続財産の分与請求は一身専属的のものと解せられるから、申立人にこれが地位の承継を認めることができない。そして、申立人はその両親の膝下で育てられ、両親が被相続人と同居していたため、幼児期から青年期にかけて約一〇年被相続人と生活を共にしているが、民法第九五八条の三の被相続人と生計を同じくしていた者とか、被相続人の療養看護に努めた者でなく、被相続人の生存中同人と特別の縁故があつたものということができない。

然しながら、申立人は被相続人の遠縁に当り、一〇年余被相続人と生活を共にし、申立人の両親死亡後これに代つて被相続人の祭祀を承継主宰しているから、被相続人の死後における特別の縁故者といえるが、特別の縁故が被相続人の死後にできた場合民法第九五八条の三に該当するかどうかにつき、即ち、被相続人と特別縁故者とは同時に存在することを必要とするかどうかにつき、同法条は、前記の如く生存中の縁故関係の例示のほか、「その他被相続人と特別の縁故があつた者」と規定するだけで、これに何等言及してないが、同法条が相続人のない相続財産の全部又は一部を国庫帰属前に恩恵的に分与することと定めた点を考慮すると、被相続人の生存中特別の縁故がなかつたとしても同人がその生存中死後のことを予測できたならば、これにつき遺贈、贈与等の配慮を払つたに違いないと思われる場合には、被相続人の死後における特別の縁故を認め、同法条の「その他被相続人と特別の縁故があつた者」に該ると解するのが相当であるといわなくてはならないから、前認定の如く、被相続人の遠縁に当り、一〇年余生活を共にした申立人が、被相続人の祭祀を承継主宰していることを、被相続人が生存中予測していたとすれば、必ずや申立人に対し遺贈、贈与等の措置にでたと推測されるからこの場合には、申立人を同法条の「その他被相続人と特別の縁故があつた者」として、被相続人の特別縁故者に該当すると解さなければならない。そして、申立人に相続財産を分与することは、まさに、被相続人の意思にも合致するものということができる。

然して、被相続人の遺産が申立人所有家屋の敷地の一筆だけで、現に申立人がこれを使用している事実その他前認定の事実等諸般の事情を考慮すると、本件遺産はこれを全部申立人に分与するを相当とするから、相続財産管理人田中真寿夫の意見を聴き、主文の通り審判した。

(家事審判官 早坂弘)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例